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「運びきれない思い出」 no.153

愛しき猫ばばあ様へ

杉本佳代子
大阪府堺市 主婦34歳

愛しき猫ばばあ様へ 昔、七十段ほどの階段を登りきった所に私の家はあった。その階段のふもとに 「猫ばばあ」は住んでいた。猫ばばあは独身で、犬二匹と猫数匹と共に生活していて、陽にやけたしわくちゃの顔でいつもしかめ面をしていたので、子供心にちょっと恐いばあさんだと思っていた。実際、男の子が猫にいたずらしようとした時、えらい剣幕で怒ったらしく、恐怖の猫ばばあは近所の子供内でも有名だった。

 私の家からは猫ばばあの家も庭の様子もよく見えた。かなりぼろい家(ゴメンナサイ)だが、庭には畑があって、猫ばばあは野菜を作ったり、花を育てたりしていた。くるくるとよく働くばあさんを私はそおっと上から見ていたものだ。

 ある秋の日。母の後について猫ばばあの家に引越しの挨拶に行った。三毛猫を抱いたばあさんは、側で見ると思っていたよりも小さくて少し驚いた。引越しの日、荷物も積み終わり、私達家族も車に乗り込もうとした時だ。猫ばばあがやって来て、「取れたばかりや。持っていきなはれ」と、なすとさつま芋を山盛りくれた。ニコニコととても優しい顔をしていた。いつもあんなふうに笑っていたら、なかなか可愛いばあちゃんなのにな。でも本当は知っていたはずなのだ、猫や犬と話す時の猫ばばあの優しい顔を。あなたの元気な姿を見ているのが好きでした。いたずらな子供なんて蹴散らかしてたくましく生きてほしい。さらば愛しき猫ばばあ様。本当は私、あなたが大好きだったよ。そう言えないまま車は走りだし、時は流れ……。

 久しぶりに猫ばばあのことを思い出して母に聞いてみると、彼女はとても元気で今もあの家に住んでいるとのこと。引越しから二十五年。猫ばばあは一体何歳なんだろう? 女一人で本当にいろんなことを頑張ってきたであろう猫ばばあ。あっぱれ猫ばばあ様! やっぱり私はあなたのことが大好き。今度ふいに訪ねてみようかな、なんて今考えている。


■転載のご協力 … the0123引越文化研究所/たる出版 ■
引越エッセイ154作品を収めた「運びきれない思い出」から1作品ずつ転載して紹介します。
問い合せ先= たる出版 〈大阪 tel 06-6244-1336 東京tel 03-3545-1135


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