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【55】 高橋 しま

1台の高所作業車

 隣のペンシルビルの引っ越し風景をみた。6階建ての細長いビルでエレベーターも狭そうだし、非常階段も狭い。このビルには美容院や整体院などが入っている。その引っ越しにきたのは、高所作業車。ちょうど、6階のこれまた狭い窓から家具をその高所作業車に載せるところだった。この作業車が結構小型で、東京の下町の狭い一方通行の道路にもすんなり入れそうなもの。その後ろに2トン車が待っている。

 見た瞬間、ああこの会社もこんな専用車を持っているのかとまず感心した。そこには、最近東京に進出したと伝えられる専業者の社名が大きく書かれていた。「へぇ、やるな」というのが正直な感想だ。そして「大変だよね、こんな特装車を持たないと、都会の引っ越しはできないんだから」と。そして大した荷物量でもないのに。なんといっても、輸送用の車両は2トン車なんだから。引っ越しする人が、この専用車が来たからといって、それに見合うほどの高い料金を払ってくれるわけではないだろうし。この専用車をどう使いこなせば、儲かるのか。投資額に見合わなくても、これがないとやれないということなのか。あれこれ心配してしまう。

 そんな話をある大手の事業者にしたところ、その会社も主要支店に高所作業車を一斉に入れたことがあったという。”一斉に”というのが、当時の社長の指令だったという。その人が支店長をしていた地方都市には高層アパートといっても4階建てしかなくて、エレベーターはなかったとはいえ、階段は広く緩やかだからその作業車の必要性はなかった。しかし、導入した以上使わないともったいないと1件の引っ越しに使うと、それを知った利用者から「ウチもあれで引っ越したい」という注文が来る。むろん注文者の家も3階だったりして必要はない。でも隣が高所作業車で引っ越すのなら、ウチもということになる。ところが車両は1台しかない。注文に応じられずによく苦情を受けたという。その人曰く、「だから稼働率はいくらでも上げられます。料金はそれほど上げられないが。まあ、宣伝料だと思えばいいんですよ」。

 確かに、目につく。もし引っ越し車両が止まっているだけなら「引っ越しか」と思うだけだが、特殊車両が止まっていると足を止め「なるほど」と思い、社名を改めて確認する。何やら高度なきちんとした対応をしてくれそうな事業者にみえる。その効果はばかにならないのかもしれない。この手法は前からあったな。

 引っ越し事業者選びに迷う人は多い。大手や宣伝しているところをそのまま信じていいものか。実際引っ越しした知人や隣人からは、手厳しい評価も耳に入ってくる。さてどうするか。そんなとき自分の目に映った光景は信用できると。なにせ、作業員自身が何やら誇らしげで、格好よく見える。

 宣伝効果アリだ。


(物流ジャーナリスト)

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